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1975.04.08 ブンタウの国内避難民

Internally Displaced Person in Vung Tau

ベトナム戦争の終末を感じて国全体がざわめきだしていた。

中南部のダナンからクイニョン、ニャチャン、ファンランそして南東部のブンタウへと海路、小さな木造船に押し込められた難民たちは、沿岸を南下していき、ようやくたどり着いたブンタウの港町に溢れていた。 
この地は、サイゴンから100Km程の距離で、サイゴンから一番近い海水浴場として、以前から有名な場所として賑わっていた。

実は、数日前に時事通信サイゴン支局長の川俣氏と会した際、避難民の話題となったことが、今日のブンタウ行き撮影取材のきっかけとなった。その時、すでにサイゴン陥落のカウントダウンは始まっていたということになる。

当時の混沌とした状況下では、ブンタウに行っても必ずサイゴンに帰れるという確信は持てない。サイゴンに帰れない場合を想定し、パスポートと手持ちのドル全てを持ち、あとはカメラバックひとつの軽装で出掛けることにした。

余談だが、外出時にベトナム人はIDカード、外国人はパスポートの携帯が必須であったが、時事通信のプレスカードを持っていたので、サイゴン市内であれば、軍警察の検問なども支障なかった。当時の日本のパスポートは大きく、南国の服装には持ち歩きに不便だったのだ。

その日の早朝、日本人の友人が住むサイゴン市内の下宿先へ、撮影取材の旨を伝えに立ち寄った。その下宿先には家主のお婆さんとその孫が住んでいたが、 23歳の私と同年だった南ベトナム軍人の孫は、1週間ほど前に友軍の誤射で戦死していた。私のブンタウ行きを引き留めていたお婆さんは、目に涙しながら孫の仏壇からお供え物の果物を下ろし持たせてくれた。

平和な日本から自分の意思で訪れたベトナムの地、日本に帰国しようと思えば何時でも帰れる自由の身。一方、戦乱の中にベトナム人として生まれたことで運命を分ける理不尽さを痛感した。

サイゴン市内のバスターミナルは混雑していたが、ブンタウ行きの小型乗合バスは比較的空いていて、開け放たれた窓から勢いよく流れ込む南の風がバスの中で渦巻いていた。バスは混雑するサイゴン市内を抜け、南ベトナム空軍基地のあるビェンホアの町を横目に国道51号線に合流、三時間余りの行程でブンタウの町に到着。早速、避難民が上陸している場所を目指した。

中南部の居住地から戦禍の混乱を避け、自身の生命を守るために安全な場所を求めて避難してくる人々、特に迫害を受ける恐れのある人の表情は真剣だ。また、ばらばらになった家族を必死に捜しまわる子供の姿も見かけた。 難民たちは南ベトナム軍の劣勢を認めたくはない一方、北ベトナム軍の優勢な軍事力を前に忍び寄る危機感に支配されていた。

下船した難民たちは思い思いに工夫してテントを張ったり、幼児にミルクを与えたり、また煮炊きして腹ごしらえをする者もいた。披露困ぱいして眠るもの、その傍らでは無邪気に遊ぶ少女たち。
ボランティアの女学生たちは難民の持つIDカードを確認して書き留める作業に追われ、登録を終えた難民たちは配給品のコメやフランスパン、ミルクなどを大事そうに受け取っていた。
また、カトリック教会の雑炊の炊き出しでは、大人も子供も鍋やプラスチック容器を手に、われ先にと詰めかけ、その姿にたくましさと切なさを感じた。

それはまだ、正午前だったか、大人たちの騒ぎ声が聞こえてきた。 サイゴンの大統領官邸が爆撃を受けサイゴン市内には無期限の戒厳令が布かれたらしい。 情報も錯綜しサイゴン行きのバスも運行停止。
いよいよ、サイゴンに帰れないとなれば、ブンタウ沖に停泊しているアメリカ海軍の艦船まで、漁船と交渉することになる。その時が来れば、手持ちの1500ドルが役立つだろうと考えた。

1975.04.08 午前08:30 Nguyen Thanh Trung 中尉の操縦するF5E戦闘機が大統領官邸の上空に飛来し二発の爆弾を投下。
チュン中尉は南ベトナム空軍に所属するパイロットだったが、実は解放軍の秘密工作員だった。
その後、ベトナム空軍の英雄としてベトナム航空の副社長となっている。

港町を西日が照りつける時刻、サイゴン行のバスが出るらしい。これを逃すと後がどうなるのか全く見当が付かないと思いバスに乗り込んだ。

その夜、無事サイゴンに帰り着くことができた。


 
     
       
     
 
   
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